譜久山剛氏にきく 「 里山資本主義の実践 」

interview
譜久山剛さん (譜久山病院 院長、里山資本主義実践講座 主催)
SUMMARY
藻谷浩介さんのベストセラー「里山資本主義」(※)を、病院食を突破口として実践しようとされている譜久山剛さんにお話をお聞きしました。
聴き手
村上豪英(神戸モトマチ大学 代表)

気がついたときには、走り出していた

藻谷浩介さんの「里山資本主義」(※)を読んで、地域における食の循環を何か実践できないか考えたことがきっかけです。考えてみると、病院食というのは偽装が絶対にありえないほど、産地も品種もよく分からないものが出されています。給食業者さんに協力してもらって、少しずつでも地産地消に移行したいと思いました。

ふと気がつくと、すでに病院には実績がありました。1年ほどまえに、それまでのブランド米を地元のお米に変えませんか、とお米屋さんから提案を受けたのです。ブラインドテストをしてみたのですが、地元のお米は味に遜色がなく、全面的に切り替えることになったのです。

里山資本主義の大切さに気がついたときには、すでに走り出していたという訳です。お米ですでに実績があるのだから、他の食材についても地産地消に切り替えることは可能だろうと考えました。

「里山資本主義実践講座」としてキックオフ

食材を拡大していくためには多くの方々のご協力が欠かせません。2013年の9月に「里山資本主義実践講座」としてキックオフして以来、何度か会合を重ねてきました。真っ先にご参加頂いたのは、実際に調理をする給食業者さんと近隣の農家の方々。福祉作業所で加工食品をつくる方や漁業の方も加わりました。

近隣の病院の方々にも参加して頂いています。私の病院が一日にだいたい100食ほどの病院食を提供していますが、この規模の病院が10箇所タッグを組めば、一日に1000食になり、大口需要家となります。これまで、地産地消の取り組みの多くは規模が小さく、生産者の方々にとってはメリットを感じにくいものでした。食材ロスの少ない病院食を1000食まとめることで、生産者のご協力を頂くメドがたち、実現が見えてきました。

管理栄養士にもスターを

病院食は、管理栄養士が患者さんにヒアリングし、毎日の食べ残しを確認したうえで、一人ひとりの症状に合わせたメニューを提供してきました。しかしながら、味付けや盛りつけ、価格などを常に来店客から評価されているレストランとは違って、どうしてもメニューが偏り、陳腐化してしまう傾向があります。

今回、地産地消の規模拡大のために病院間ネットワークをつくりましたが、メニューの共通化を検討するなかで、各病院の管理栄養士がお互いに刺激しあう場になればとも思っています。病院間のメニューの発表会などを通じて、切磋琢磨できればいいですね。

料理の世界には名コック、医療の世界には名医と評価される人がいます。病院食の世界にも「名管理栄養士」とされる人が生まれて、スポットライトがあたるようになればいいなと思います。

さらなる実践に向けて

まずは、生産者の方から直接食材を共同仕入れする取り組みを、お米だけでなく野菜に広げていきたいですね。流通業者の助けを借りず、生産者さんのトラックで納入してもらえる車で一時間圏内ぐらいが、地産地消の一つの目安だと思っています。流通業者さんのマージンや食材ロスを省くなかで、生産者と給食業者、病院など、関わる全ての方にメリットがある枠組みが作れると思います。

また、地域の農家さんとの絆が深まれば、園芸療法の場として農地を活用することも視野に入ってきます。また、ベジチップスのようなスナックを開発することによって、持ち運びできる健康な名産品を一つ生みだせるかもしれません。エネルギーの地域循環についても、可能性は常に探しています。

藻谷さんの「里山資本主義」を読んだときには、遠い世界のように思えたこともありましたが、こうやって一つずつ実現に向かっていることがとてもうれしく感じています。「里山資本主義実践講座」の多士済々なメンバーと一緒に、これからも幅広い可能性を探りたいと考えています。


(※: 藻谷浩介・NHK広島取材班著 「里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く」 )


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