小泉寛明氏にきく「神戸への移住促進計画」
- インタビュー
- 小泉寛明さん(神戸R不動産)
- SUMMARY
- 神戸の人が外部の人を呼ぶ仕組みを創りたいと考え、2012年12月には「神戸ポートランド化計画」と題したフォーラムを開催された神戸R不動産の小泉さんに、構想をじっくり語っていただきました。
- 聴き手
- 村上豪英(神戸モトマチ大学 代表)
移住促進を思いついたきっかけは何でしょうか
私は関西学院大学を卒業したあと、カリフォルニア大学のアーバイン校において都市計画を学びました。帰国して六本木ヒルズ開業前の森ビルに就職。アメリカでのフリーランス生活を経て、大阪基盤の不動産企画開発会社のIDUに入社しました。そして、関連企業の取締役を歴任し、旅館の再生など複数の不動産企画事業に携わった後、2010年4月に神戸R不動産をスタートさせることになりました。
実際に神戸R不動産のサイトをオープンさせ、開業できたのは震災直後の2011年の4月。東日本大震災に伴う原発トラブルへの不安感も高く、東京からも非常に多くの問合せを頂きました。
もともと神戸の中だけで不動産を流通させるのではなく、遠方からも来てほしいとは願っていましたが、せいぜい10%程度だろうと予想していました。しかし実際には、当初の想定をはるかに上回り、初年度は成約にいたったうちのなんと半数が東京からのお客様だったのです。
どんなお客様が東京から来られましたか
やはり手に職があり、働くために東京にこだわる必要がない方が多かったです。例えば複数の有名な絵本作家の方が移住して来られました。もともと働く場所を自ら選ぶことができる職業の方々ですが、神戸には日本で唯一の本格的な絵本作家養成スクールがあり、作家さんのコミュニティがあったことも大きな要因となりました。また、プログラマーやデザイン・編集関係の方々も、クライアントとの打合せさえうまく調整すれば、移住が可能な職業です。
生活の質が高く、交通の便もよい神戸は、東京からの移住組のなかでも現実的な選択だし、一度来て見てみるとそのよさがわかります。だからこそ、神戸への移住者がその満足度を口コミで広げることによって、移住する人はもっと増えると思っています。
口コミを広げていく取り組みには予算は不要ですし、民間の私たちの方が得意とする手法です。行政だけに任せておく必要はないと思っています。
進行中のプロジェクトは
神戸でのすてきな暮らしをイメージすることができるよう、「神戸移住のススメマップ」を作成しているところです。移住の可能性がある東京など外部の方を中心に、1.5万部を配布しようと思っています。
そのために、東京R不動産の編集ディレクターが参画して、編集に外部の視点を入れるよう心がけました。また、クラフトやデザイン、IT関係など、ある程度絞った業種の方をターゲットとして、その業種の方々が求めているコミュニティが神戸にあると感じ取れるような編集を心がけています。
私は、神戸が強みを発揮するのは生活文化産業だと思っています。何もかもにスピードが求められる東京の生活に疑問をもっている人は多く、ゆっくりとものづくりをしていきたい人にとっては、移住先としての神戸のポテンシャルは高いと思います。
生活文化に関係する小さなビジネスが集まって、モザイクのようにキラキラと光っていく。そんなまちにしたいと願っています。
マップ以降の展開について
口コミやマップの力で神戸に一度来て下さった方には、観光ではわからない神戸の魅力を一度生活体験することで実感してもらいたいと思っています。そのために、神戸市内数カ所にトライアルステイができる拠点を設ける構想があります。
ポイントはやはりヒト。ただ何かを体験するのではなく、ホスト役として迎える神戸の人々と共感できるようにしつらえたいと思っていますし、ホストとのコミュニケーションこそが移住への吸引力となるはずです。
さらには、神戸に一時的に住みながら働く、ワークインレジデンスの受入もしてきたいと思います。生活のなかでも「働く」ことは大きな比重を占めています。一度滞在して働いた方が、その体験を発信することができれば、神戸の魅力はもっと広められると考えているからです。
今の日本はビジネスシーンで人と実際に会うことを必要以上に重んじています。IT技術も駆使しながら、会わずとも働けるような合理的なスタイルが定着すれば、東京中心の日本のカタチすら変えられるような気がしています。